セミの♂外部生殖器(ゲニ)について

セミの外部生殖器については、あまり日本語の詳細な資料はないように思う
私的なメモもかねて、学んだことを集めておく
 
一般的(?)な呼称に倣い、
”♂外部生殖器”のことを単にゲニと称する
本来、ゲニ:genitaliaは♂♀の生殖器を含む用語のようだけど、
♀については理解が乏しいので、今回は記述しません
 

1.ゲニの各部位の呼称

種によって非常に多様で、
とてもすべてを網羅できるものではないので
ある程度基本的なところを。
 
takasagogeni.png
スジアカクマゼミの”pygofer(生殖節)”
radiatorgeni.png
チッチゼミのpygofer 正面図
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
①uncus lobe, 肛鈎・・・
交尾に使われる部位[1]
ゲニの中では最もわかりやすい部分、同定にもよく用いる
②aedeagus, 挿入器・・・
(属にもよるが)先端あたりにあるtheca、
根元にあるbasal plateなどさらに細分化されている
奥まって隠れていることも多い
③anal style
④hypandrium,生殖下板
⑤clasper, 把握器・・・
亜科Cicadettinae(チッチゼミ亜科)に見られる
(例外的に亜科Cicadinaeの一部にも似たようなものがある)
他の虫の「clasper」とは定義が異なるよう[2]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
再度の表現になるけど、
上の二種でパーツの形状が全く異なる(特に①や、⑤の有無)ように、
種によって非常に様々な形態がある。
 
ただし、全く無秩序なわけではなく、
亜科レベルである程度パターン分けをすることが可能。
 

2.セミのゲニのパターン分け

 
ちょっと脇道にそれるけど、
そもそもセミとは、というのを分類ありきで定義すると、

セミ上科Cicadoideaに属する昆虫の総称

とのこと[1]
 
そのセミ上科Cicadoideaは2科に分かれていて、
科Tettigarctidae Distant, 1905(ムカシゼミ科との和名)と、
科Cicadidae Latreille, 1802(セミ科)から成る。
 
そして現存種に限ると、
ここからさらに科Cicadidaeが5亜科に分かれる。
 
ようやっとゲニに話をもどして、
科・亜科レベルのパターン分けは以下のようになっている
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

①科Tettigarctidae(現存種は1亜科のみ)

絶滅種を含めるとこの科はさらに細かく2亜科へと分かれるが、
現存種は属Tettigarcta White, 1845の二種のみなので省略。
 
ゲニについては参考文献[3]の図が参考になる。
日本産セミ科図鑑によれば、

♂外部生殖器(把握器paramere, 真の挿入器aedeagusの存在)等々、セミよりもむしろ他の頸吻類と共通した特徴を持つ(EVANS 1941)

との記述がある[1]
現存する中では、もっとも祖先的な特徴を残すとされる。
 
個人的に注目したいのは、
aedeagusに(多分?)ventro basalpocketがはっきりある点。
この形質は、比較的新しい種では失われている。
 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

②科Cicadidae(現存種は5亜科)

おそらくだけど、この科に共通として
把握器paramere, 真の挿入器としてのaedeagusが存在しない?はず
 
a.亜科Derotettiginae Moulds, 2019
上記Tettigarctidaeの次に祖先的で、
言い換えれば、セミっぽいセミのなかでは最も原始的とされる仲間。
 
ゲニについては、やはり参考文献[3]の図が参考になる。
Tettigarcta crinitaと同様ventro basalpocketがある[4]。
さらに、basal plateは二又状に割れる
 
また、uncusは体外に露出している。
 
 
b.亜科Tibicininae Distant, 1905
南アメリカの南方で栄えるTettigadini族や、
北アメリカ~ヨーロッパ~中国まで分布するTibinini族などからなる。
 
tibicininigeni.png
Tibicina cf. haematodesのpygofer(一部加工)
 
上の写真で全く示せていない、
aedeagusの根本の構造については、
三度、参考文献[3]の図などを参照できる。
やはりventro basalpocketがある一方で[4]、
これまでの2亜科と異なり、
basal plateは二又状に分かれない
 
uncusは体外に露出している。
 
 
c.亜科Tettigomyiinae Distant, 1905
アフリカに生息する仲間で、
風船のように膨れた腹部のTettigomyiini族や、
葉っぱそっくりの外見をしたHovanini族などからなる
 
inflatageni.png
Malagasia inflataのゲニ(一部加工)
 
亜科Tibicininaeと似たような形状にも見えるが、
pygoferの側方に、distal shoulderと呼ばれる突起が発達している
 
また、uncusは体外に露出しているが、ventro basalpocketを持たない
[4]の資料中にHovana distantiのaedeagusが図示されており、
それを見ると、確かにbasal plateはなめらかで窪みはない。
 
 
d.亜科Cicadettinae Buckton, 1890
和名チッチゼミ亜科、全世界に分布する。
日本に関係するものとしてその和名の通りチッチゼミ族が該当し、
他にクサゼミ族、クロイワゼミ族などが属する。
 
tumagurogeni.png
ツマグロゼミのpygofer(一部着色加工)
 
aedeagusにはventro basalpocketを持たない。
また、distal shoulderは発達しない

これまでの3亜科と大きく異なるのは次の二点。
I.ゲニが収納可能であること
II.“clasper”があること
 
I.については、pygofer全体が腹部にすっぽり仕舞われるようになっている。
そのため、セミ自身の意思か、あるいは手を加えない限り
uncusなどの構造は露出しない。
 
II.については、uncusとは別に存在する構造物で、
一対の鈎状になっている。
なお、上述のように他の虫の”clasper”とは異なるため、
区別する意味で「anterior lobe」などの呼称が使われることがある
 
uncusは殆どの種で小さい突起状。
 
 
e. 亜科Cicadinae Latreille, 1802
和名セミ亜科、全世界に分布する。
日本ではヒグラシ族、アブラゼミ族、
クマゼミ族などのほとんどのセミが属する。
 
minmingeni.png
ミンミンゼミのゲニ(一部着色加工)
 
aedeagusにはventro basalpocketを持たない。
また、distal shoulderが発達する
 
ゲニが収納可能であり、一方でclasperはない
ただし、Cosmopsalriini族にはclasper的なものがある。
例外として覚えるか、distal shoulederとの合わせ技でも判断できる
 
構造の上ではシンプルなゲニをしているけど、
uncusの形態は多様。
ゲニの要素要素を細かく見るべきポイントも多い。
 

以上。
日本産セミのゲニの特徴はまた別の記事に
 
 

参考文献

[1]M. HAYASHI, Y. SAISHO,”日本産セミ科図鑑 改訂版”, 誠文堂新光社(2015)
 
[2]M. HAYASHI, N. NAGATA, “セミの新しい高次分類とそれに伴う日本産セミ類の分類学的変更”, Cicada
25 vol.2 (2019).
 
[3]CHRIS SIMON, et. al., “Off-target capture data, endosymbiont genes and morphology reveal a relict lineage that is sister to all other singing cicadas”, Biological Journal of the Linnean Society, 128, 865-886(2019).
 
[4]ALLEN F. SANBORN, et. al., “Redefinition of the cicada tribe Hemidictyini Distant, 1905, status of the tribe Iruanini Boulard, 1993 rev. stat., and the establishment of Hovanini n. tribe and Sapantangini n. tribe (Hemiptera: Cicadidae)”, Zootaxa 4747 (1): 133-155(2020).
 
DAVID C. MARSHALL, et. al., “A molecular phylogeny of the cicadas (Hemiptera: Cicadidae) with a review of
tribe and subfamily classification”, Zootaxa 4424 (1): 001-064(2018). 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

カテゴリー

最新の投稿

TOP